
乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(1) (アクションコミックス(月刊アクション))
作者さまのホームページ 『LA GROTTA』はこちら。
http://ohnishikoichi.jimdo.com/フス戦争を題材にしたマンガです。
いや、連載開始したときから読みたいと思いつつ、雑誌を手に取れていなかったので、とても嬉しいです。
フス戦争と言えば以下のホームページが言わずと知れた大御所でしょう。
「バルト~エーゲへの道」
http://www002.upp.so-net.ne.jp/kolvinus/
ここのタボル戦記は最高に面白いです。
ちなみにフス派が多用した車陣戦術はそのままターボルという戦術名称で近世ポーランド軍でも頻繁に使われています。
さて、漫画の内容ですが、幼い少女が戦乱に巻き込まれ、そしてジシュカによって戦士となっていくのが基本ストーリー。
いわゆるファンタジーで良くあるストーリーな訳ですが、しかしフス戦争においては結構事実だったりする。
農具や工具、つまるところ打穀具や斧、長柄の鎌を手に取り農民たちは戦った。
そして女子供も築城作業や戦闘そのものに加わり、戦闘単位に含まれちゃっていたのです。
当時の年代記作家は、勇敢なる子供兵士をして「新騎士」なる称号を与えているので、その戦い振りは印象的なものだったのでしょう。
ということで、主人公である少女のような存在はフス戦争においては、なんら絵空事ではない。
作中でも子供たちや女性は今後もどしどし戦い、そして塵芥のように散るでしょう。
そんな主人公である少女シャールカが今後、どのような地獄を見るのでしょうか。
残酷な話ですが、変にオブラートに包まずストレートに戦争を描いているので大変面白いです。
それにしても、ジシュカは人非人ですな。マンガでも史実でも。
フス戦争については前出のホームページの他
プラハの異端者たち―中世チェコのフス派にみる宗教改革 (叢書 歴史学への招待)
やフス派の戦術についての論文が載っている
近世軍事史の震央―人民の武装と皇帝凱旋
が詳しい。
特に近世軍事史の震央にある「フス革命における人民軍の変貌」は、日本語で読める唯一のチェコ人が書いたフス戦争軍事研究論文ではないかなと思う。
すごい面白そうな参考文献が大量に載っているのだが、すべてチェコ語資料なので、まず間違いなく読めない。
あと歴史群像の2005年72号にもフス戦争の記事があります。読みやすくて面白いです。
歴史群像 2005年 08月号
オスプレイシリーズにもフス戦争1419-36 がありますね。
上述の群像の記事でもこの本のイラストが使われてます。
The Hussite Wars 1419-36 (Men-at-Arms)
車陣戦術についてはフランス革命戦争やナポレオン戦争系ブログとして名高い
http://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/54396543.html
などなど。
近世軍事史の震央に収録されている車陣戦術の起源においては、
p65
「戦闘の間に運搬車を使用するのは、何もフス教徒によって発明されたわけではないことに留意しよう。かかる運搬車は既に以前から利用されていたのであった。この問題は理論的見地から既にコンラッド・カイザー(Conrad Keyser)の書物で研究されたが、そこで取り上げられたのは、"Bellifortis"と題されて一五世紀初頭にヴァーツラフ四世の宮廷でものされた軍事技術だったのである」と記されている。
もっとも論文の著者ミロスラフ・ポーリフカによると、ヤン・ジシュカは車が使用されたグリュンワルトの戦いに参加しており、そういった実地の知識によってフス派の車陣戦術は形成されたらしい。
火器と車陣の組み合わせの起源については残念ながらこのポーリフカの論文には記載されていないので、祖国は危機にあり 関連blogの考察が正しいかは不明。
ただし、前述した「新騎士」は投石器で活躍したとあるので、初期の頃は火器と組み合わせていなかったという指摘はそこそこ信憑性がある。
ちなみに投石という戦術は、今に至るまで弱者の基本武器であり、様々な史料が示すとおり、器具を使用した場合は特に決して侮れない威力がある。
そんなわけで、漫画では火器をつかっているシャールカですが、実際のシャールカは投石器を使っていたのかも知れませんね。
1. 書評ありがとうございます
拙著をご紹介いただいてありがとうございます。
いろいろと勉強になる記事ですね!
参考にさせていただきます。
拙ブログでもこちらの記事へのリンクを貼らせていただきました。
今後ともどうぞよろしくお願いします~
Re:書評ありがとうございます
まさか、作者さまからコメントを頂けるとは、しかもリンクまで貼っていただけるとは、本当に恐縮してしまっています。
書評では上手く書き表せておりませんけれど、本屋で手に取り小躍りして、家で読んでは燃え上がっておりました。
近世ヨーロッパ、特に西欧以外ともなるとマイナージャンルなので大変かと思いますが、続きを楽しみにしております。