アムリッツァ会戦で遊んでる文章です。ネットで色々と書いてあるのも取り入れていますね。
前回の
エントリを踏まえた上で読んで貰えると幸いです。
アップルトンの第八艦隊とヤンの第十三艦隊の結接点を巧みに衝いた黒色槍騎兵艦隊の突撃は、完璧だった。
初期の襲撃で両艦隊の結接点を見きわめると素早く、そこを突破してアップルトンの第八艦隊と乱戦に持ち込み、これを壊滅させた。
「進め、進め!勝利の女神はお前らに下着をちらつかせているんだぞ!」
その間、ヤン率いる第十三艦隊は再度進出してきたミッターマイヤー艦隊と戦闘し、これを再び撃退した。
「救いに出れば、敵の勢いから見て乱戦となり、系統だった指揮などできなくなることは明らかだった。それは自殺行為に等しかった。結局、彼は(ミッターマイヤー艦隊への)砲撃を密にするよう命じるしかなかったのである」
ビッテンフェルトには二つの選択肢があったように思われた。第八艦隊の残存を無視して同盟艦隊の戦列を突破し背面に展開して挟撃体制を取ること。反転して第十三艦隊と戦うこと。
しかしキルヒアイス艦隊による大規模な挟撃作戦がある手前、勝手に計画を変更することはビッテンフェルトには許されなかった。
その結果、ビッテンフェルトは困難な敵前回頭からの第十三艦隊撃滅を目指した。
OVA「ようし! 全艦反転、先ほどかわされた第13艦隊を、背後から撃つぞ!」
ビッテンフェルトの誤算はミッターマイヤー艦隊が余りにも不甲斐なく、撤退してしまったことにある。その結果、第十三艦隊はさしたる困難もなく、艦隊を反転させることが出来た。
OVA「今だ、(全艦回頭、定められたプログラムに従って全艦が一斉に動く)。全砲門、背後の空域で回頭する黒い艦隊を撃て!」
しかし黒色槍騎兵艦隊はヤン艦隊と互角に戦った。長距離砲を主体としてヤン艦隊と火力戦を展開した。
戦列が崩れていた黒色槍騎兵艦隊で、これが成功したのは、第八艦隊の残存戦力がまだ近辺に残っており、これのためにヤン艦隊が得意の集中砲撃が出来なかったためである。
そしてこれらの戦闘はミッターマイヤー艦隊に戦列を整える猶予を与えていた。もしビッテンフェルトとミッターマイヤーが協調すればヤンの第十三艦隊を挟撃することが可能だった
ミッターマイヤーの能力を信頼していたビッテンフェルトは、長距離砲による火力戦では、同士討ちになる可能性が高く、また挟撃の利点が生かせないため、機動力に定評のあるミッターマイヤー艦隊にはヤン艦隊の後方に突撃をかけてもらい、その間に黒色槍騎兵艦隊も前進して、近距離砲と艦載機による格闘戦によってヤン艦隊を磨り潰すこととした。
「よし、今一歩だ。とどめを刺してやる」「母艦機能を有するすべての艦はワルキューレを発進させよ。他の艦は長距離砲から短距離砲へ切り換えろ。接近して戦うんだ」
しかしミッターマイヤーはヤン艦隊の背後に突撃しなかった。突撃どころか背を向けた第十三艦隊に対して何らの攻撃も行わなかったようである。それは戦機を見るに敏な彼をして非常に不可解な行動だった。
本来であればラインハルトが激怒する類の逡巡である。しかしラインハルトはミッターマイヤーの逡巡を受容した。これもまた、ラインハルトの気性からして不可解なことである。おまけに彼はミッターマイヤー艦隊を支援していたメックリンガー艦隊にも、自身の予備艦隊にすらも第十三艦隊の後方への攻撃を命じなかった。
この二つの不可解に対する最も合理的な回答は、ラインハルトの命令であったと言うことしかない。つまり、ラインハルトがミッターマイヤーの攻撃機動を押しとどめたのであろう。
ビッテンフェルトを信頼することが出来ず、彼にミッターマイヤー艦隊が砲撃されることを恐れたのだ。
あるいは戦列のバランスを優先したのかもしれない。
どちらにせよラインハルトは、ビッテンフェルトがヤン艦隊を拘束し続けられるとは考えなかった。ビッテンフェルトのねばり強さを信頼しなかったのである。突撃力しか信頼していなかったのである。
連携を欠いた黒色槍騎兵艦隊は支援を欠いたまま前進し、格闘戦に引きずり込む前に、整然としたヤン艦隊の戦列からの零距離射撃によって壊滅した。
ラインハルトは自分の失敗に気がつき、それを押し隠すために次のように宣いもした。
「ビッテンフェルトは失敗した。ワルキューレを出すのが早すぎたのだ。敵の砲撃の好餌になってしまったではないか」
オーベルシュタインの冷静さにも刃こぼれが生じたようだった。もともと蒼白い顔が、彗星の尾に照らされたような色になって、
「彼の手で勝利を決定的にしたかったのでしょうが・・・・・・」
(なんという方だ。この人は、自分の失敗を全部、あいつに押しつける気なのだ。私も今後、気をつけねば)
そう応じた声はうめきにちかかった。
それでもビッテンフェルトは諦めなかった。未だヤン艦隊は帝国軍主戦列に背後を晒している。自分を信頼して欲しい。死ぬ気で戦うので、ヤン艦隊の背後から攻撃を掛けて欲しいと援軍を要請した。
しかしラインハルトはこれを無視した。
「援軍?」
「私が魔法の壺を持っていて、そこから艦隊が湧き出てくるとでも奴は思っているのか?」
(私が失敗したことをこれ以上、追求するな)
「ビッテンフェルトに伝えろ。総司令部に余剰兵力はない。他の戦線から兵力を回せば、全戦線のバランスが崩れる。現有兵力をもって部署を死守し、武人としての職責をまっとうせよ、と」
(さっさと、私の代わりに責任取って死ね)
「以後、ビッテンフェルトからの通信を切れ。敵に傍受されたら我が軍の窮状が知れる」
(変なことを触れ回れると困る)
ふたたびスクリーンに蒼氷色の瞳を向けたラインハルトを、オーベルシュタインの視線が追った。
冷厳だが正しい処置だ、と半白の髪の参謀長は考えた。
(軍事的天才としてラインハルトは無謬であらねばならない)
ただ、と彼は思う。万人に対してひとしくこのような処置がとれるか。覇者に聖域があってはならないのだが。
かくしてキルヒアイス艦隊が来援するまで、戦線は停滞した。
その後、戦線は崩壊し、ヤン艦隊は包囲の危機に陥った。このときビッテンフェルトは司令部から命令を受けることが出来なかったにもかかわらず、包囲網の一角を担い遊兵化しないで戦局に寄与した。
しかしこの期に及んでも、司令部からの連絡はなかった。キルヒアイス艦隊の混乱につけ込んでヤン艦隊が動き出したとき、他の艦隊はこれを傍観するだけであったにもかかわらず、ビッテンフェルトのみはヤン艦隊の退路を断つべく、敢然と立ち向かった。
すでに勝利を決めて戦意のない諸将は支援せず、ヤンは逃げおおせた。ビッテンフェルトは僚友の不甲斐なさを不満に思いつつも、それを決して非難せず、自分の失敗を隠そうとするラインハルトの叱責にも黙って耐えたのであった。
しかし心の奥底で思っていたはずである。
「口は重宝だな。親を売るにも友人を裏切るにも、理由のつけかたはあるものだ」
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